SEAR: Super Engine of Auto Race

セア
場所:オートレース選手養成所

降りしきる雨の中、爆音とともに候補生達が訓練に励んでいる。
その中に永瀬達也がいた。候補生の中でもひときわ才能に恵まれた感のある永瀬に養成所の教官達も熱い視線を送っている。
その傍らで、もう一人達也を見守る視線があった。
星野純羽、20才の音大生。
達也とは幼なじみで恋人、暇を見つけては養成所に足を運び達也を見ている。
両手を合わせて、
「今日も一日、無事でありますように・・・」と祈る。
そんな純羽に達也も気付き目で合図する。目で答える純羽。
—-達也、回想する—
10代の頃、バイク狂の達也は仲間とつるんでは暴走を繰り返していた。
仲間が白バイに捕まりそうになると、その白バイを自分の方に引き付けて逆にまいてしまう程、達也の運転技術と整備力は抜群。
達也の背中に書いてある刺繍「God Speed You ! 」
「俺の影は誰にも踏ませない....」
得意になって疾走する達也。

しかし、その先に交通機動隊の検問が待ちかまえていた。
強固なバリケードが作られ、絶対絶命の達也。
「ちくしょう!」と叫びながら突っ込む。
転倒!ここぞとばかりに襲いかかる機動隊。袋叩きにされる達也。
機動隊の一人が、薄ら笑いを浮かべながら達也のバイクに近づいていく。
「こんなものがあるから君たちがダメになっちゃんだよネ。ふふ・・・」
マッチに火を付けて達也のバイクを引火させようとしている。それを見た達也、気が狂わんばかりの形相で愛車のところまで走っていく。
「やめてくれ!それだけはやめてくれ...そのマシンは俺の命なんだ!!」
哀願する達也を機動隊が取り押さえる。
その目の前でバイクに火が放たれた。
オイル漏れをしているバイクは瞬く間に燃えていく、呆然と見ている達也、そのまま気を失う・・・

場所:拘置所
面会に訪れた純羽の前にうつろな目をした達也が表れる。

純羽:「達ちゃん元気出して、もうバイクは卒業しよう。達ちゃんだったら、どんな生き方をしてもきっと上手くいくと思うから・・・二人で別の生き方探そう。私、待ってるから・・・達ちゃんの笑顔ずっと待ってるから・・」

達也:「純羽・・・何にもなくなっちまった今の俺は死人と同じなんだ・・・そんな俺に笑えって言うのか・・・」
純羽「達ちゃん・・・」うつむく。
達也:「一体、どんなつら下げて、どんな笑い方をすればいいんだよ・・・お前なんかに俺の気持ちなんかわかりはしない。分かってたまるか!帰ってくれ、俺を哀れむ奴はみんな帰ってくれ!」
純羽:顔をあげて「達ちゃん、ごめんなさい。」
達也:「同情なんか、持ってこないでくれ・・・頼むから。」
立ち上がって行ってしまう。
・3カ月後、初公判。某家庭裁判所
髪はボサボサ、髭も伸び放題で現れた達也。
裁判官に起訴事実の確認を求められる。
達也:「間違いありません」と素直に認める。
—-検察側の冒頭陳述が続く—
現在の心境をと問われて、
達也:「深く反省しています。これからは少しでも社会のお役に立てるように努力します。」
ボソボソと小さな声で事務的に言う。
弁護側の情状証人として出廷した達也の両親。
父:「大変、申し訳なく思っています。これからは夫婦で暖かく見守ってやり、2度とこのようなご迷惑をお掛けしないことをここに誓います。どうか、寛大な措置をお願い申し上げます。」
母:「再出発をしたあかつきには、今度こそ規則正しい生活をさせ、社会人として立派に更正させます。」と涙声で・・・

傍聴席には純羽の姿も。
達也と目が合うが、達也視線を逸らす。

・数日後、釈放。

拘置所の前で待っていた父、無言で車の助手席ドアを開ける。

達也乗る。
・車の中での会話
父:「どうだ、体の調子は・・・?! ちょうど手頃な骨休みになったんじゃないのか?!」
達也:「まあね・・でもちょっと運動不足かな・・・」
と言って首を回すしぐさ。
父: 「さてと、うまいものでも食いにいくか!」
達也:「オヤジ、その前に行きたいところがあるんだ。」
父: 「どこだ?!」
達也:「焼かれちまったマシンの供養をして行きたい。」
父: 「バイクなら、また買えば済むことだ。何だったら今から買いに行くか?!」
達也:「オヤジ・・・相変わらずだな!金、金、金って、なんでも金で解決しようとする。」



父: 「達也、金で解決出来ないことなんてあるのか?お前もゆくゆくは、私の仕事を引き継いでもらう大事な跡取りだ。世の中の仕組みはこれからタップリと教え込むつもりだ。
世の中は、コレだよ」と親指と人差指で丸をつくる。
達也:「くだらねえ・・・いったいゼニをいくら貯め込めば気がすむんだ!オヤジ、不愉快だ、車を止めてくれ!」

—-車を止める—–
車から降りた達也、オヤジの顔を見ながら
達也:「オヤジ、金で買えないものだってある・・・人の心と、逝っちまった俺のマシーンだ!!」
そう言ってドアを閉める。
車と反対方向に向かって歩き出す。
—-車をバックさせて、オヤジ達也に近づく—
父:「達也、また何があったら連絡してくれ、それとこれ、何かのために持っておけ。」
そう言って札束の入った財布を達也のポケットにねじ込む。父、そのまま急スピードで行ってしまう。

・深夜の新宿の繁華街
ネオンの海を泳ぐ達也、酔っている。足は千鳥足。路地裏でヘルスの呼び込みに捕まる。
呼び込み「お兄さん、たった今入って来たばかりのピチピチの女子大生がいますよ!ハタチ、早いもん勝ちだから、さあ、どーぞどーぞ!」
なかば強引に店に引っぱり込まれる達也。

ヘルスの店内
マジックシラーで客の方から女のコが見える仕組み。
呼び込み「あれが入ったばかりの新人の葉子ちゃんです。」
見ると、活発な女のコの中で、ひとりだけ、怯えるようにうつむいたまま座っている。
呼び込み「葉子ちゃん、お客さんだよ。たっぷりとサービスしてあげてネ。」
葉子、上目使いで「新人ですけど、宜しくお願いします。」
——エレベーターで個室へ——
葉子「お客さん、かなり飲んでますネ・・・」
達也「君も飲むか?君だって飲まなきゃいられない心境だろ・・・?!」
そう言ってポケットからバーボンを出す。
葉子「いただくわ・・・少しだけ。」
達也「君みたいな娘が、こんな店にいるなんて、よほどの事情があるんだろうね、やっぱり、金のためか?」
葉子「いきなり、そんなことを聞いちゃうんですか?!」
達也「ああ・・・遠回りが嫌いなんダ!」
葉子「じゃあ、話すわ・・・その前にもう一杯!」
バーボンをラッパ飲みして葉子話始める。
葉子「実はネ、私の彼、バイクで大ケガしたの。原因は時速100Kmで走っていたところに小犬が飛び出してきて、その小犬をかばったために自分は転倒して大ケガ、普段からドジで失敗ばかりしてるひと・・・なんか、今回あの人らしくて・・・」
達也「その彼の入院費稼ぎか・・・?」
葉子、うなずく。
達也「何もこんなところで働かなくてもいいしゃないか・・・君も価値感がマヒした大人になっちまうぞ・・・お金の代わりに人間を失う。」
葉子、うつむいて頷く。
達也「まっ!俺もそんな偉そうなことを言える立場じゃない、説教をのこのこたれる程大人にもなってないし、毎日、笑って過ごせる程若くもない・・・何、言ってんだ俺・・・?!
少し飲みすぎちまったようだ・・・葉子ちゃん・・・だっけ?!」
葉子「ハイ!」
達也「これやるよ、バイク好きの彼氏によろしくな!」
父がくれたサイフごとベットの上に置く。
葉子、黒目の勝った大きな目をクルクルとさせビックリした様子。
葉子「こんなもの頂けません」
達也「自分を安売りするな!彼氏が助けたワンちゃんからの伝言だ!」
そう言って個室のドアを開けて階段を降りる。後ろ姿を見ていた葉子、思わず声をかける。
葉子「お客さん、名前くらい教えてくれませんか?!」
達也「お店で名前を聞くのはルール違反だ!
俺はただの酔っぱらい・・・
今日は飲み過ぎインポだった。
ははっ元気でな!」
達也、サヨナラのしぐさで階段降りる。
さっきの呼び込みが寄ってくる。
呼び込み「どうでしたお客さん、お味の方は・・・ふふ!」
達也「今日でクビにした方がいいよ、あの娘。」
呼び込み「えっ・・・!これはどーも。
チェッ!まったく今の女子大生は何を考えているのやら・・・」
とブツブツ。

・再びネオン街をフラフラする達也。
薄暗いショットバーに入る。カウンターだけの店。
マスター「いらっしゃいませ、何を召し上がりますか?」
達也「わからないんだ・・・何をやりたいのか、何をすればいいのか・・・」
マスター「わかりました。その気持ちをカクテルにいたしましょう。」
マスター、タンブラーで何かを作っている。
出来上がったグリーンのカクテルを達也の前に出して
マスター「どうぞ」
達也「このカクテルの名前は?」
マスター「escape」(逃げることの意)
達也「ふ、ふ、出来すぎだよ、マスター」
・早朝の新宿、歌舞伎町
達也がフラフラ歩いている。人通りはない。
カラスとホームレスだけがチラホラといるくらい。
行くあてもなく、自然と足は純羽のところに向う。
純羽は池袋のアパートで独り暮らし。
突然の達也の訪問にビックリした様子。達也は多くを語らない、それでもいい純羽しばらくの沈黙のあと、


純羽「達ちゃん、無事で良かった。お家に電話しても全くつかまんないし、捜索願い出そうと思ってたところ。」
達也「もう、ポリのやっかいになるのはごめんだ・・・」
純羽「狭くて汚いところだけど、ゆっくりしてって、今、何か買ってくる。えーと、達ちゃんが好きなものは・・・」
ここで達也、ポケットからバーボンの空ビンを出してコレという仕草、その後、小指の先を純羽に向ける・・・目と目が合い、達也、ここで初めて純羽の前で笑顔。
純羽「達ちゃんが笑った・・・!」
大きな目に涙がどんどん溜まっていく
泣き顔を見せまいと、「行って来るネ。」と買い物に出掛ける・・・
夕焼けを見ている達也、心にはポッカリと大きな穴があいている。

・買い物に行った純羽
場所はコンビニ
出てくるところで「純羽!」と声を掛けてきたのはクラスメートの葉子だった。
純羽「あっ葉子、伸ちゃん、事故の具合はどうなの?!」
葉子「うん、以外と重傷でネ。リハビリも入れると1年くらいかかるみたい。」
純羽「そう、結構大変だネ。伸ちゃんって仕送りなしでやってたから、お金の方だって大変なんじゃないの?!」
葉子「うん、それは私がバイトして何とかする。明日から伸ちゃんがよく行ってたガソリンスタンドで・・・当面は昨日カンパしてくれたお客さんがいたから・・・」
純羽「えっ?!お客さんって・・・?!」
葉子「あっ・・・うん・・・ちょっとネ・・・
そんなことよりも伸ちゃん、夢だったオートレーサーになるための試験が受けられなくなったことがすごくショックみたい・・・」
純羽「オートレーサー?」
葉子「うん、2年に1回しか試験がないの。競争率も30倍くらいあって難度A、多分、伸ちゃんなんか、何度やっても落ちると思うけど、夢を追いかけてる伸ちゃんが一番好きだから・・・」
純羽「ねぇ、葉子、オートレースって、どこに行けば見れるの?」
葉子「オートレース場に行けばいいのよ、川口にもあるし、デートだったら伊勢崎のナイターオートがお勧め。」
純羽「デート・・・?!」
葉子「身持ちの固い純羽に男なんているわけないか!」
純羽「・・・・・・」
葉子「それじゃ、私、お見舞いに行って来るから。」
純羽「うん、それじゃー」
ふたり別れる

・帰り道、いつもの魚屋に寄る。
そこの主人に尋ねる
純羽「おじさん、オートレースって知ってる?!」
主人「ああ、知ってるよ、俺も好きだからネ、よく行くよ!あの爆音を聞くのが一番のストレス解消だ。」
奥さん「全く、うちの主人たら、暇さえあればオートに行って、勝った、負けたって大騒ぎ。大の大人がオートバイの競走くらいで興奮して理性を失って、ハタから見てるとバカみたいだよ。」

主人「女のお前には、一生かかってもわからねえだろうなあ・・・興奮して理性を失うからこそ、そこにドラマが生まれるじゃねえか、まさしく男の世界、職人の世界よ!」
純羽「おじさん、アジの開き2枚!」
主人「おう!まいど、オートファンには1枚おまけだ!」
ニッコリほほえむ、純羽、会釈して、再びコンビニに行ってスポーツ紙を買う。

・アパートに戻る
純羽「ごめん、達ちゃん、遅くなって・・・」
友達とバッタリ会っちゃって話し込んじゃった。お腹、空いたでしょう・・・今、すぐ作るからね。」
達也、寝そべって野球を観てる・・・終始、無言…..
純羽が作ったのはスキヤキ
それを食べながら
純羽「ねぇ、達ちゃん、オートレースって知ってる?!」
達也「あぁ、聞いたことはあるょ、ギャンブルだろ。」
純羽「ほら、ここに出てる・・・」とスポーツ新聞を見せる。
達也「・・・・・・」
純羽「ねぇ、達ちゃん、明日、ふたりで見に行こうよ。ね!いこーいこー!」
達也「あぁ・・・」と力の無い返事。
そのまま達也、新聞にくぎ付けになる。
達也「ハンデってなんだ・・・?! 3.41・・・?!」

・朝、台所の音で目が覚めた達也
純羽「達ちゃん、よく眠れた?」
達也「あぁ・・・」
純羽「さぁ、早く御飯を食べてオートレース行こう!」

・川口オートレース場、正門前
純羽「わぁ〜〜これがオートレース場か・・・でかいなぁ・・・」

・間もなく1レースが始まる
プロテクターに身を包んで一周500Mのバンクを風のように疾走する8人の選手達。
身をつんざく様な爆音とスタンド一杯に充満するオイルの匂い。ゴール前のデットヒートに沸き上がる歓声。どれもこれも達也には新鮮でなおかつ衝撃的だった。
じっと観ていた達也
達也「ス・ゲ・エ・・・!!俺の心が・・・魂が・・・騒ぎはじめている・・・これかもしれない・・・俺が探し求めていたのはこれかもしれない・・・」と、つぶやくように。
純羽「えっ何?!達ちゃん、よく聞こえないよ。」
(爆音のため)
純羽が達也の顔を見上げると達也の目には光が戻っていた。
そのままふたりはその場所でレースを観戦する。スピードとスリルと迫力に圧倒される。6レースの試走が始まる時、ふたりの前に予想屋の山ちゃんが現れる、試走を見ている山ちゃんに
客A「山ちゃん、本命の③番、良く見えた?!」

山ちゃん「いや、コーナーの立ち上がりでドドドがひどかった。あれじゃ、勝負にはならんょ。」
客B「じゃぁ、また前、前で⑤ー⑥か?!」
山ちゃん「6枠の2車はスタートに難があるし、5枠はタイヤと、カム位置が合っとらん。勝負は①ー②か①ー④だな・・・」
その話しを聞いていた達也、思わず、
達也「おじさん、バイクが一周、走ったのを見ただけでそんなことまで、なぜわかるんだい?」
山ちゃん「ハハハ、アタシはもうこれで30年、メシをくっとる。あそこで予想屋をやってます。わからないことがあったら、いつでも聞きに来なさい。」
6Rが始まる。予想屋の言う通りの結果になる。二人とも、唖然とする。二人で予想屋の側に行ってみる。すごい人だ。

・予想台の上で
山ちゃん「またまた的中、また的中。こんなに当たっちまったらアタシの予想でオッズが動いちまうってかー!さぁ、さぁ、お若い方も、お年を召した方もゼニのある奴も、くすぶってる奴も、みんなアタシの予想に乗っちまえば、盆と正月が一緒になっちまうくらいの騒ぎだぜ。今度のレースはこの2車で鉄板だ。
ハナもかめない紙屑になっちまうような車券は一点も書いてない綺麗なスイチ。さぁ、上昇気流に乗ってみないかい?
予想は下から読めばウソよ、でもお客さん、儲けるとゆう字は人を信じる者と書くだろう。ハハハ、さぁ—–ここも勝負だょ。
どうせ、レース場から1歩、外へ出たら、つまらない現実が待ってるだけだ、せめて、ここにいる時くらいは夢を見ようじゃないか・・・きのうまでの自分におさらばしたかったら、それにはリスを背負い込む勇気と覚悟が必要なんです。
たまにはやってみなさいょ。自分を変える為にもさぁ、勝負ですょ!」
そこまで言うと客が一斉に山しゃんの予想を買い始め、黙って見ていた達也と純羽
達也「きのうまでの自分におさらば・・・か、あのオッサンいいこと言うじゃねぇか。」
純羽「予想屋って、おもしろい商売だね。なんか、夢を売るみたいで・・・」
そのままふたりで最終レースまで見てる。

・レースが終わって誰も居なくなったスタンドで
達也「純羽、俺、決めたょ。オートレーサーになる。日本で速くて強い選手になってみせるよ。」
純羽「うん!達ちゃんだったらなれる・・・きっと!」

・ふたりが帰ろうと門を出た時、向こうの選手専用の宿舎から、次々と選手が車で帰路に着こうとしているのを見て
純羽「あれ、オートレースの選手かなあ〜〜?!」
達也「みんなイカした車に乗ってるじゃん。」
純羽「ちょっと見に行ってみようか?」
ふたりで門の前で選手を待つ
一台の車が出てくる。
運転手が年を取ったオジサンだったので
軽しく純羽、声をかける。


純羽「おじさん、まだ選手の人は出てくるんですか?」
広瀬登喜雄(56才)「私も選手だょ」
ふたりで顔を見合わせる
達也「あの〜〜俺も選手になりたいんですけど、どうすればなれますか?」
広瀬「それだったら、ちょうど今年の秋にテストがあるから受けてみなさい。甘くはないけど、情熱と忍耐、それにヤル気が人一倍、いや、人の3倍くらいあれば受かるょ。」
達也「わかりました。受けてみます!」
広瀬「がんばりなさい。レース場で待ってるょ。」そう言って広瀬選手は車で行ってしまう。
向こうから予想屋の山ちゃんが来る
山ちゃん「お前さん達、今の方、誰だか知っとんのか?オートレースの神様と呼ばれている広瀬登喜雄選手だょ」
二人再び顔を見合わせる「えっ!オートの神様?!」
達也「山さん、実は俺もオートの選手になりたくて・・・」
山ちゃん「そうか、まだ若いから可能性は無限にある。どうです?アタシはこれから伊勢崎に行くんだが、君たちも行かんかね?」
達也「夜もやってるんですか?」
山ちゃん「あぁ、やっとる、夜は夜でまたいいもんだ。」

・3人で山ちゃんの車に乗り込む
車の中で
純羽「山さんっていつから予想屋をやってるんですか?」
山ちゃん「まだ、大井オートなんでもんがあった頃からですよ。走路にはたんガラが巻いて合って、バイクが通る度に金鋼にへばり付いていたアタシの顔なんか真っ黒になっちまって・・・
あの頃はアタシも随分と乱暴な勝負をしましてね。若かったんでしょう。な・・・なんとか車券でまとまった金をこさえ、それを元年に、今度は確実に儲かる商売をやろうなんて、見果てぬ夢を見ましてね。お金と追いかけっこの毎日で、随分とムダな曲がり道を歩きましたが、今、振り返ってみると、あれはあれで楽しい思い出として残っているもんですよ。
かれこれ40年になりますか・・・」
純羽「でも山さんの予想ってけっこう当たってた。山さん自身は車券を買わないの?」
山ちゃん「今日はたまたまですよ。ふだんは1日に3本当たればいい方です。私はめったに車券は買いません。買ったとしても200円券1枚だけです。限られた金で長く人生を楽しむ為にはこれが一番ですし、当たった時の喜びは200円も10万円もさして変わりがないようです。今頃になって、やっとこんなことに気付きました。」
達也「俺、今日思ったんだけど、オートレース場って人々の喜怒哀楽や欲望が渦巻いていて、それはまるで人生の縮図みたいだった・・・」

山ちゃん「ふむ、その通りです。あそこは鉄火場です。国が認めている賭博場です。アタシもいうんな人間を見て来ました。すべての財を投げ打って、それでもこりずに、打ち続けて。借金の総額と自分の生命保険の金がほぼ同額になった時、その人は逝ってしまいました。自分のケツを自分で拭いた、あの、潔さはたいしたものでしたけどね。あとに残された者はたまりませんょ。レース場に足を一歩踏み入れたらあとは命の次に大切なお金をとなりの客どうしで奪い合うわけですから、そこにはキレイ事なんてありはしない、あるのは男の野望と欲望だけです。そんな熱い
視線を浴びながら走る選手達も大変ですよ。でも、やるからには一流を目指して頑張って下さい。いつもお客さんに喜んでもらえるようなそんな走りをして下さい。お客さんはよく見てますょ。一生懸命やれば納得してくれます。そんなレーサーになって下さい。」
達也、頷く。
間もなく伊勢崎オートに着く。
カクテル光線の中で行われているナイターオートの美しさに達也と純羽、我を忘れて見とれてしまう。
隣で山ちゃん
山ちゃん「それでは、おいぼれはこれで失礼します。あとは、お若い者どうしで楽しくやって下さい。」
純羽「山さん、また川口オートに行った時はオートレースのこと教えて下さい。私、なんだかハマリそうです。」
山ちゃん「はい、いつでもどうぞ・・・」
そう言って人込みの中に消えてしまう。
歓声と、どよめきが交差する。スタンドの隅っこ、爆音と共に火花を散らしながら疾走するマシン、その美しさに、しばし見とれてしまう。
そのままふたりは最終レースまで見とどける・・・

——3ヶ月後——
オートレースの試験当日
達也と純羽が試験場へと向かう

・並木道
純羽「達ちゃん、昨日はグッスリ眠れた?」
達也「緊張してぜ〜〜んぜん。」
純羽「へぇ—達ちゃんでも緊張するんダ・・・?!」
達也「あぁ、試験と名の付くものを真剣にやるのは生まれて初めてだ。」
純羽「大丈夫、達ちゃんは絶対受かるょ。だって達ちゃんはオートレーサーになる為に生まれて来たんだもん。」
達也「だといいけどな。」

・試験会場の前に着く
純羽「じゃぁ、頑張ってね、運と私が達ちゃんの味方、ここでずっと祈ってるから。」
達也、軽く手を振って会場へ。純羽、手を合わせる。

「試験の様子を描写する」

数時間後、達也、会場から出てくる。
純羽、達也に近づき、マイクを持ってるそぶりで達也の口元へ
純羽「どうでした、生まれて初めて真剣にやった試験の感想は?」
達也「結構手ごたえありました!」とおどけながら
純羽「そう、良かった。あとは神様が決めてくれる。なんか、私、お腹ペコペコ・・・ねぇ、おいしいもの食べに行こうょ!」
達也「よ-し、合格の前祝いだ、なんでもおごっちゃう。」
純羽「ラッキ—–」
二人で腕を組んで人込みの中へ

——-1ヶ月後——-
達也の元に合格通知が届く
早速純羽にTEL
しかし、留守番電話、そのメッセージ
「ただ今、オートレースに行ってます。ご用件のある方はメッセージをどうぞ、なお、私の帰宅予定時刻は8時。」
達也「またオートレースか・・・」と言って苦笑い。

・夜
合格通知を持って純羽のアパートに行く達也。純羽、部屋にいる。ちょっとホロ酔いかげん。
達也「また山さんと飲んでいたのか?」
純羽「ウン!山さん、今日、7レースも当てて絶好調!もう、ご祝義、一杯、もらっちゃって満面の笑顔っていうの?私まで気分良くなっちゃった。」
達也「そうか、ならもっと、もっと、気分良くしてあげようか。」
そう言われて目を閉じて口びるを差し出す純羽。
達也「なに勘違いしてんだ。コレだよコレ!」と言って合格通知を見せる。
純羽「えっ!あっ!ウソ・・・!やったあ〜〜おめでとう達ちゃん」
達也に抱きつく—–キス。
純羽「なんか、夢みたいだね。うん、目を開けたまま夢を見てるみたい。」
達也「夢を現実にしたんだ。1年後に永瀬達也はデビューする。」
純羽「よし、達ちゃん、合格祝いやりにいこう!」
達也「OK!」
純羽「どこでやろうか?」
達也「俺、ちょっとシャレてる店、知ってんだ、付き合えよ。」
純羽「うん!」
達也が純羽を連れて行った店は以前、ふらりと立ち寄った新宿のショットバー、名前は「枕言葉」。
ドアを開けて入るふたり
純羽「達ちゃん、結構いい店、知ってんじゃん、何人の女連れてきたの?」
達也「今日で2回目だ。前は一人で来た。」
マスター「いらっしゃいませ。なにを召し上がりますか?」
達也「今夜の気分で・・・」
マスター「なにか、いいことありました?」
達也「えぇ」
マスター「わかりました。今のその気分をカクテルに致しましょう。」

純羽「私にもそれを。」
マスターカクテルグラスを回しながら何か作っている。出来上がったカクテルは淡いピンク。
マスター「どうぞ・・・このカクテルの名前はフィァネス!」
純羽「イケてる!」
ふたりで乾杯肩を寄り添うふたり・・・

——-ここで達也の回想終る——–
再び養成所のシーン
養成所の日頃の生活を描く
やがて春が来て卒業式
達也は訓練生の中で最優秀賞に選ばれる
会場には達也の両親の姿も式が終わって純羽にTEL
二人の待ち合わせ場所は「枕言葉」
純羽「いよいよだね。」
達也「あぁ、所属先は川口に決まった。明日から実地訓練に入る・・・」
純羽「そう、川口か・・・あそこはお客さんがたくさん来るから、やりがいあるよ。」
達也「山さんと純羽のホームバンクだしね」
純羽「うん、」
達也「あっ!それからマシーンの名前決まったんだ。」
純羽「なぁに?」
達也「ウィング」
純羽「ウィング・・・?!いいじゃん、イケてるじゃん!」
達也「純羽の羽をとってウィング!」
純羽「うれしいー!ウィングが日本一になる日を楽しみにしてる・・・!」

・川口オートのロッカー
新人達が先輩のロッカーにあいさつに回っている。広瀬選手のロッカーで
達也「永瀬達也です。宜しくお願いします!」
広瀬「やぁ、待ってたょ!」
達也、初めて広瀬選手と合った時のことを思い出す。
達也「あの時は、どうも失礼しました」
広瀬選手、ニコッと笑いながら、
広瀬「あの時、知り合ったのも何かの縁だ。これからは何でも私に聞きなさい。」
そう言って達也の肩をポンとたたく。
達也、再度「宜しくお願いします。」

——デビュー当日——-
達也の両親も固唾を飲んで見守っている。
父「よくここまで来た、自分が決めた道だ。思う存分、自分を試してみるがいい・・・」と心の中で独り言。
母「達也・・・どうか無事でありますように・・・」とつぶやく。試走が始まる、永瀬の試走を37を見てスタンドどよめく。
フェンスの下で山ちゃんと純羽が見ている。

客A「山ちゃん、すげえ新人が来たなぁ〜」
客B「あいつは間違いなく超級だぜ!」
山ちゃん「あぁ、10年に一度の天才・・・ってところか。」

・レースが始まる
達也の独走、後続をぶっちきって快勝!
再びスタンド、どよめく
絶賛の声をあちこちで聞かれる。
両親も手を取り合い喜んでいる。
金網ごしに純羽も達也に向かってガッツポーズ!
それに気が付いた達也も軽く手を上げて答える。
ロッカーに引き上げると、広瀬選手から祝福の言葉をもらう。
広瀬「おめでとう!いいレースだったょ。」
達也「ありがとうございます。これからも精進を重ねて早く広瀬さんと同じレースに出れる様、頑張ります。」
広瀬「よし、そうの心意気だ!待ってるよ!」
その後も達也は順調に白星街道を爆進!
気が付けば20連勝していた。
当然、マスコミも騒ぎ出す。
天才の名をほしいままにして、本人も有頂天になっていた。
その勢いで秋のオートレース最大のビックイベント全日本選手権に出場する。この大会には大本命の呼び声高い船橋所属の島田選手も出場していた。史上最強戦士と呼ばれる島田か、勢いに乗る新興勢力の永瀬か、世論も、まっぷたつに別れていた。そんな折、日本選手権の幕は切って落された。
両者予選は土つかずのパーフェクトでクリア。そして決勝。
入念にバイクを整備する達也
余裕で何も整備しない島田、あまりにも対象的なふたり、達也、心の中でウィングに語りかける。
達也「あと1勝、あと1回で日本一だ!・・・ウィング頼む、俺の夢を叶えてくれ・・・」
試走が始まるスタンドには両親、山ちゃん、純羽が見守っている。

——試走終わる——
純羽「山さん、ウィングは仕上ってるの?」
山ちゃん「いや、アタシには良くは見えなかった。タイヤがじゃっかん高目で、そのせいでドドドが出てました。タイヤが悪いと言っても、それを選んでしまったのは本人ですからね。あとはスタートに賭けるだけです。スタートで失敗したら勝ち目はゼロです。」

——試走タイム発表——
島田が3.28なのに対して達也3.33

決勝の時
全選手がスタートラインに並ぼうとしている。

実況は北島興アナ
北島「さぁ–リビングアリーナーの皆さん、大変なことになりました。待ちに待ったというか、もう少し待ちたかった。そんな両雄、あいまみえる、平成の名勝負、いや、今世紀最大の名勝負と言っても、けっして過言ではありません。日本一の名を欲しいままにして、もはや、独裁政権とまでいわれた。最強戦士、島田の時代に幕を降ろすことが出来るのか天才永瀬達也。」

——-発走10秒前のアナウンス——-
スタート、長瀬、トップスタートを決める
北島「ポンと飛び出したのは永瀬、やはりスタートで勝負してきました。そのまま、後続を1車身、2車身とぶっち切り始めている。今日も影を踏ませないのか永瀬、栄光のチェッカーフラッグまであと9周!」
達也「おかしい・・・タイヤが合っていない。このままじゃやられる・・・頼む、ウィング、後8周…」
北島「軽快にトップをひた走る永瀬、しかしいつものスピード違反の走りは見られません。その間に島田が1車1車さばいて長瀬のすぐ後ろまで迫ってきました。島田は余裕の走りを披露しています。まるで、ヘルメットの中で、うすら笑いさえ、浮かべている様な、そんな気さえします。さぁ、後3周、永瀬持ちこたえることができるのか!」
達也「ダメだ・・・タイヤが終わってしまっている。こうなったらイチかバチでインを絞めよう・・・」
北島「さぁ–スタートから逃げている永瀬に、今まさに島田がキバを向いて、襲い掛かろうとしている!二人の壮絶なバトルはいよいよ青旗を目にしました。後1周にすべてを賭ける二人、軍配はどっちに・・・最後のバックストレッチ、島田が最後の賭けに出ました。強引に永瀬がふところをしめる・・・あぁ〜〜!永瀬がバランスを崩した、落車です!永瀬が3コーナーで落車しました!!」
スタントどよめく、両親が目を覆う
純羽が3コーナー目指して走り始める
マシーンが火花を散らして、フェンスめがけて、転がっていく、達也も強くフェンスに叩きつけられる。救急車が来る。タンカに乗せられる達也、そのかたわらでウィングが炎上する。
タンカに乗せられて、それを見ていた達也。
以前、機動隊によって焼かれてしまったマシーンを思い出す。
達也「あの時と、同じだ・・・」
救急車に運ばれる。その中で島田が優勝したアナウンスを聞く。
スタンド、いつまでもどよめきが収まらない。
客A「永瀬が島田に挑戦なんて、まだ早すぎたんだょ」
客B「相当ひどい落車だったぜ。」
客C「あぁ・・・あんなの見たことねえょ。」
山ちゃん「永瀬は今までが運が良すぎた・・・こんなところで運の帳じり合わせをさせられるとは神様もかなりのサディスティクなお方だ・・・」

・純羽、いてもたってもいられなくなり、病院に行く
そこには達也の両親も来ていた。
病室に絶対安静のランプが灯る。
医者の話では首の骨を折って、しかも内蔵破裂の重体。再起のメドはまったく立たないと言う。

——3ヶ月後——
リハビリを続けている達也を純羽が尋ねる
純羽「どう、具合の方は・・・」
達也「ダメだ、手も足もまるで自分のじゃないみたいだ。」
純羽「時間をかけて、ゆっくり直そう・・・そう、そう、今日の結果ね、午後から雨走路になって福田さんとか篠崎さんなんかは順当に勝ったけど、広瀬さんは、ちょっと外を使い過ぎちゃって2着だった・・・川口の雨はみんなが走るコース知ってるからカタイよね・・・」
そこまで言うと達也
達也「辞めてくれ・・・レースの話はしないでくれ・・・辛いんだ。走れなくなった自分ではなくて、走ろうとする気持ちがなくなってしまった自分に・・・もう・・・いいんだ・・・」
純羽「達ちゃん・・・」
達也がリハビリを繰り返している時

ある日の川口オートレース場でいつものように純羽、山ちゃんの台のところに行く、しかし、山ちゃんの姿はない、隣の予想屋に聞いたところによると、仕事中に倒れたらしい、病院の名前を聞いて駆けつける純羽。

・山ちゃんの病室で
山ちゃん「あぁ、純羽ちゃんか、こんなおいぼれの為に良く来てくれた・・・ありがとう。アタシ、もうガタガタになっちまいましたょ。この商売も引退することにしました。」
純羽「えっ!もう予想屋さん、やらないんですか?」
山ちゃん「えぇ・・・年貢の納め時です。」
純羽「それじゃ、山ちゃんの予想を楽しみにしているあのお客さん達はどうなるの?!」
山ちゃん「そうは言っても体あっての予想屋ですし・・・心残りはあと1回、日本選手権が見たかった・・・」
純羽「何言ってんの山さん、元気出して!ねぇ、山さん、私がやる!山さんが元気になるまで私が予想台に立つ・・・」
山ちゃん、ちょっとビックリした様子
山ちゃん「まぁ、いいでしょう。好きにやってみなさい。これが予想屋の鑑札です。」と言って渡す。
純羽「ありがとう山ちゃん、私、いつの間にか、この仕事好きになっていた。お客に夢を売るステキな仕事だと思っている。いろんな人と知り合うことができるし、いろんな人と喜びとか、悔しさを共有できる・・・予想が当たって、あんなにたくさんの笑顔に囲まれて・・・そんな仕事、他にないもん。」
山ちゃん「純羽ちゃん、実際にやってみればわかります。そんなに甘いもんじゃない。当たりとハズレだったら、圧倒的にハズレる方多い・・・お客さんの笑顔よりもしかめっツラを見る方がほとんどです。」
純羽「そういう人には今度があるさって励ましてあげるの、負けても負けても次があるじゃないかって・・・たとえ今日、負けても明日だってあるし、明後日。明日や明後日は自分の味方だと信じて生きる・・・レースはこれから先も永遠にあるんだから。」
それは達也に対しての言葉でもあった。

・次の日、純羽が予想台に立つ
物珍しさで人が集まってくる。
純羽「私は山さんの一番弟子の純羽です。山さんの体調が思わしくないので、私が変わりを務めます。まだまだ師匠の足元にも及びませんが、この素晴らしいオートレースを1人でも多くの人に知ってもらうためにも一生懸命頑張りますので、どうか宜しくお願いします。」
そう言うと観客から拍手が沸き起こる。
まんざらでもない様子の純羽。
客A「ねぇちゃんにオートがわかんのか?!」
純羽「まだ勉強中ですけど、今は直感で勝負です。」
客B「ねぇちゃん、なかなかいい声してるじゃねえか、むこうまで聞こえっぞ!」
純羽「ありがとうございます。実は私、元、音大に行ってました。」そう言って純羽、突然、川口オートのテーマソング「ぶっち切りの青春」を歌い出す。客、やんやの喝采を送る。
女子大生風の2人連れ
「あのう・・・永瀬選手のファンなんですけど、もう、カムバックしないのでしょうか・・・?」
客C「そういゃあ〜〜永瀬はあの落車以来、出てこねえなぁ〜〜」
女子大生風の2人連れに対して純羽答える
純羽「今、リハビリをしています。体じゃなくて、心の・・・戻ってきます・・・必ず。チェッカークラッグを受けに戻ってきます!」

—–現在の達也——
病院から抜き出して、放浪の旅に出る。
アジアの国々を巡り、たどり着いたのはベトナム
この国では人々が普段の足として、バイクの需要が非常に多い、そんな背景が気に入ったのか、達也は小さいなバイクショップで仕事をしていた。
内容は壊れたバイクの修理、どんな故障でもすばやく確実に直すとあって、評判は上々だった。ベトナムの風土にも溶け込み達也は生き生きとしていた。
バイク屋の素朴で美しい娘が達也に好意を抱く。
ある日、達也の元に一通の手紙が届く。
母の危篤を知らせる手紙。達也、動揺する。とりあえず、日本に帰ることにする。

・日本帰国
母の入院している病院に見舞いに行く
母「よく来てくれたね・・・元気そうで安心しました。私も、もう長いことないみたいです。最後に、こうして達也の顔を見ることが出来て良かった・・・
達也は小さいな時からオートバイが好きだった・・・オートバイに乗っている時が一番生き生きしてた。こんなことになるんだったら、生き生きした達也をもっとよく見ておけば良かった・・・」
達也「おふくろ、何を言ってんだ!これからも、いつだって、見れるよ!俺はバイクに乗ることしか能が無いから・・・」
母「そうだね・・・また見れるね。
達也、くれぐれも体には気を付けてね」
達也「うん」返事をして母の手を握りしめる。

その帰り、久しぶりに「枕言葉」に寄る。
ひとり、カウンターで飲んでいると、となりの客同志の会話が聞こえる。
客A「今日のレースすごかったなぁ〜〜」
客B「あぁ、あの船橋の新人、宅痲伸ってすげえ奴だぜ、島田にまっ向勝負、いどんだもんな。」
客A「島田だって、あそこは引かないょ、宅痲に対してもいましめの気持ちもあったんだろ。」
客B「なにも落車する程、しめなくてもいいのにな。」
客A「宅痲の自業自得だょ。」
この宅痲伸の名前にピンときた達也

—–回想する——
達也が連戦連勝してた頃
純羽「今度、私の友達の葉子の彼氏が試験に受かって、今、養成所に入ってる。もうすぐ卒業、デビューしたら達ちゃんのライバルになるかもネ!」そう言ってたことを思い出す。
達也、自分と同じ境遇の宅痲のことが気になって、以前、自分が入院していた病院を尋ねてみる。
宅痲はここに入院してた。
病室を訪れると、全身ギブスだらけの宅痲とその傍らに葉子がいた・・・
達也と葉子、最初はお互いに誰だか、わからない様子
すぐに葉子があの時の酔っぱらいを思い出す
達也も思い出して、二人とも目と目であいさつする。
宅痲「もしかしたら、あなたは永瀬、永瀬達也さんじゃないんですか・・・?あの伝説の名勝負をした・・・」
達也、コクリとうなずく
葉子「あなたが達也さん、純羽が探してます。」
達也「そうですか・・・でも知らせないで下さい。俺はもう、すべてを捨ててしまったんです。」
宅痲「そんなに簡単に捨て切れるものですか?
俺には出来ない・・・
このまま引き下がることなんて出来ない!
愛する葉子の為にも・・・」

—–宅痲回想する—–
ケガで入院して退院した時のこと
小さな花を持って病院の前で待ってた葉子
宅痲「お前にも、随分迷惑をかけたな。」
葉子「うぅん、ぜーんぜん、それより退院おめでとう!今日は快気祝いに伸ちゃんの大好きな焼き肉ゴチしちゃう!」
宅痲「葉子、無理すんなょ!」
葉子「平気だってば—–!」
葉子が乗って来た車に乗り込む
「わ」のレンタカー焼き肉屋の前に着く

葉子、突然
葉子「あっ、そうだ!今日、バイト先の仲間と食事する、約束忘れてたょ、まいったなぁ〜〜ここで食べると、もう食べられなくなるしなぁ〜〜。」
宅痲「じゃあ、また今度にしょうか?!」
葉子「ううん、気にしないで・・・私、ここで待ってるから、伸ちゃんだけ食べて来て・・・退院したら、焼き肉が一番先に食べたいって言ってたじゃない・・・ホラ、行って来て!」
そう言ってサイフを強引に渡して伸だけ焼き肉屋に入る。
伸、窓際の車の見える席に付く。車を見ていると葉子が降りて小走りに走っていく。行った先はコンビニ。そこで葉子、大き目のフランスパンを1本だけ買う。
車に戻ってパクパクとほおばる。
あっという間に食べ終わって、フクロを外のゴミ箱に捨てに行く、その帰りに水道を見付けて蛇口をひねる、ホースから出る水をうまそうに飲む・・・
それを見ていた伸、葉子がアルバイトで貯めたわずかなお金も自分の入院費に消えてしまって、貧乏な生活を余儀なくされた葉子に気が付く・・・涙が溢れる伸
伸「葉子、お前だけは俺がどんなことがあっても絶対に走らせにしてみせる、必ず・・・誓うょ!」
そうつぶやいて泣きながら肉を食べる。

—–回想終わる—–
伸「俺って昔から、ドジで間抜けで、いつも肝心のとこで失敗して何をやってもダメな人間だった・・・葉子がいたから選手にもなれたんだ。でも俺にはあんたのような才能なんてなかった。持ってる力でただ、がむしゃらに走るだけだ・・・天才と呼ばれた、あんたが羨ましいょ。あの満員のスタンドの観衆のすべてを魅了した、あんたの走りは最高だ。
でも見損なったぜ・・・!今のあんたがやってることはただの逃避じゃないか・・・一番楽な道を選んで、負け犬に成り下って、過去の栄光にすがって生きんのか・・・!違うだろ・・・俺たちはレーサーだ。俺達の道は1本しかねぇ・・・
行く道は行くしかねぇ・・・そうだろ?!」
葉子「伸ちゃん、もうやめて・・・」
達也「悪かったな。彼女を大事にしてやれょ」
そう言って出ていってしまう。

・帰り道
達也の頭の中で母と伸の言葉が交差する。
達也「行く道は行くしかない・・・か!」
自然と足は広瀬の家に向かう

・広瀬の家
達也「長い間、ごぶさたして申しわけありませんでした。今一度、走りたくて戻ってきました。日本選手権でもう一度、島田さんと勝負させて下さい。」

広瀬「そか、やっとその気になったか、やってみろ・・・気のすむままに自分の可能性を探す旅、それが人生を。」

・次の日から、朝、ジョキングを始める
レース場に行って朝練と夕練に参加する。回りの選手達に白い目で見られるが黙々と1人でマシンの整備に明け暮れる。今度のマシンの名前は「ネオ、ウイング」

・ある日
こっそりとレース場に入ってみる。純羽に合うために・・・
予想屋をやってる純羽を見付ける。
近づく、純羽、気づく、
純羽「達ちゃん・・・!」
達也「やぁ、元気か?」
回りにいる客たちが達也を見て騒ぎ出す
客A「永瀬だ!」
客B「永瀬じゃねえか・・・」
客C「あの永瀬か!」
そのまま達也、スタスタと予想台に登ってしまう。
騒がしかった場内が静まり返る。
客の全てが達也に注目する。
達也「みなさん、どうもごぶさたしてました。やり残した事を思い出して戻って来ました。長い道のりの頂上が見えかけた時に俺は登るのをやめてしまった。人はみな逃げ出したと言うけど、俺はただ疲れてしまっただけだ・・・もう一度、頂上に登って、そこからの景色を見てみたい。選手権でカンバックします。どうかみなさん、よろしく!それと、この山さんの弟子もかわいがっ てやって下さい。」
客A「いいぞ永瀬!」
客B「待ってたぞ—-」
客C「今度こそ、島田を倒せ〜〜」
客D「いょ〜日本1!」
客E「日本選手権はお前と心中や!」
純羽が「頑張ってね達ちゃん!」と声をかけると、達也、うなずくそのまま走って、門から出ていってしまう。
純羽、ずっと見てる・・・

—–3ヶ月後、再び日本選手権——
大本命の島田は予選をパーフェクト
対する達也は準決をかろうじて2着で薄氷を踏む思いでの決勝進出達也は3年のブランクで軽視されいた。

・決勝当日
決勝戦の試走が始まる
みんながたたずを飲んで見てる
島田3.25
達也3.30

・スタンドで
たくさんのお客に取り囲まれて純羽、つぶやく
純羽「なんで、あんな高目のタイヤを使ってるの?!あれじゃ、序盤で置いていかれてしまう・・・」
客A「なんだ、これじゃまた島田の楽勝だ!」
客B「そうだな、永瀬もこれじゃ話しになんねえょ」
純羽つぶやく「もしかしたら・・・島田を差すつもり?!達ちゃん・・・!」

・発走直前
北島興アナ「さぁみなさん、あの名勝負から3年の月日を越えて、不死鳥のごとく永瀬達也がカンバックしてまいりました。
3年前と同じ島田という大きな壁を目の前にして、今日はどんな戦いを挑むのか・・・永瀬があの日の借りを貸すか、それとも島田が返り討ちをするのか、頂上決戦いよいよスタートです。」

——発走10秒前の声—–
・スタート
北島「おおと、永瀬が前輪を持ち上げてしまった。これは大きなロスです。現在、最後方の8番手です。これでは、絶体絶命とお伝えしておきましょう。島田は好位置の3番手につけています。
やはり島田が強い、現在2番手まで上がってあと一車さばけば8連ぱに大きく視界が広がります。さぁ、半分の5周が終わったところで島田が先頭!永瀬は、現在、順位をひとつあげて、それでもまだ5番手です。先頭の島田とはおよそ10車身くらい、水があいてます。しかし、島田、コーナーごとにタイヤが滑り出してきた。その間に着実に順位を上げてくる永瀬、一車、また一車と裁き、島田とは逆に周回を重ねれば重ねる程、伸びを増しています。そして残り3周でとういう島田に追いつきました。
3年前とは逆の展開になってます。しかし、島田のガードは堅い、かつて、誰も島田のインには入ったことがない。完璧な抑えを披露しています。永瀬はなす術がないのか?!」

—–残り2周——
純羽「ここからよ達ちゃん」
しかし、かなり手こずっている様子
北島「さぁ、いよいよ残り1周のバトルになりました。バックでイチかバチかの突き込みをする永瀬。そうはさせなないと必死に抑え込む島田、さぁ、どっちに女神が微笑むか!」
そして、とうとう永瀬、島田を差す。
北島「永瀬が島田を差しました。大きくバランスを崩して後退する島田。永瀬、そのままゴールイン!」
金綱ごとに喜ぶ純羽の姿を見て。
達也、手を振って答える。
純羽、泣いている。
病院のベットで観戦してた母と山ちゃんも目頭を熱くしていた。伸も病院のベットで葉子と抱き合って喜んでいる。
ロッカーに引き上げた達也に広瀬が近づく
広瀬「よくやったな、頂上に登ったじゃないか。」
達也「ありがとうございます。」

—–次の日から再び達也失踪—–
純羽も父も探すが手がかりなし
マスコミも大騒ぎする。
その頃、達也はベトナムにいた。
修理の順番を待つたくさんの客に囲まれて、黙々と働いていた。仕事が一段楽した時、娘が達也を呼ぶ
娘「達也、夕食が出来たよ」(ベトナム語で)
達也「いまいくょ」(ベトナム語で)
台所で仕度する娘
お腹が大きい
達也の子を宿している。
達也が汗を拭きながら入って来る
達也「さぁ、メシ食おう!」(ベトナム語で)

——ここでエンディング——
この後、元気を取り元した母の姿、
忙しそうな父、元気良く予想をしている純羽と山ちゃん、
スター街道を爆走する伸それを祈るように見ている葉子、
などが映しだされる……