不良中年の独白2

私はギャンブラーの傍ら中国を始めとするアジアの便利屋をしている。今回の依頼は、日本のウーロン茶なんかを販売している会社が、テレビCM用のモデルを捜して欲しいというもの。七月始めに早速美人がうようよといる上海へ飛んだ。五〇名ほど街を歩けば誰もが振り返るような飛びきりの上海美人を集めたが、もちろん全て私の好みの女たちだ。足フェチの私としてはどうしても最初に目が足に行ってしまう。特にふくらはぎの肉の盛り上がりのラインに私はうるさい。ここの足首から膝小僧にかけての曲線がなだらかな足でないと有無を言わさず不合格にした。これまでの経験から言えることは、しなやかな足の女は概して家庭の躾や教育が行き届いており、男への気遣いや作法もきっちりと心得ているものである。毎回上海へ行きこの手のモデルのオーデションをやると起こるハプニングではあるが、条件外のモデル候補者を振るいに掛け、いよいよ最終の水着審査でのこと。ここで私たち日本人には信じられないことではあるが、彼女たちの中には当然彼氏のいる娘もいて、
「自分の彼以外には肌を見せられない」
などといって頬を紅潮させ水着をもったまま俯いている娘が何人もいるのである。最初にこんな場面に遭遇した時はなぜだか妙に感動してしまい、そんな純な精神構造を持つ中国女性に胸がときめいたものだ。
日本企業が中国に進出するのに伴い、中国に駐在する日本人ビジネスマンも大分増えた。
上海にもかなりの数の駐在員がいるが、彼らの密やかな楽しみがカラオケだ。別に歌なんかはどうでもよく目的はもちろん上海小姐。
どうしてこんなにモデルみたいな可愛い子がたくさんいるのかと毎回驚くほどカラオケ店で働く上海ギャルは粒ぞろいだ。日本で楽をしたいからとホステスをしている女たちとは違いそれぞれ家庭の為といったようなワケありではあるが、とにかく明るく、一時ではあるが時間の経つのも忘れるほど恋人役を務めてくれる。上海での経験の浅いビジネスマンなどかなりこのカラオケギャルにはまりこんでいる。上海ギャルのしたたかさを知らない日本の男が初対面で女の子のポケベルの番号を教えてもらったりすればもう有頂天、
・・・この女は俺だけに番号を教えてくれたきっと俺に惚れているに違いない・・・
だなんて勝手に錯覚し始めてしまうから、いい気なもんだ。そんなどこにでもある夜の店で張穎華(チャン・イン・ファ)と知りあったのは今年の三月中旬。テレビの制作の連中と打ち上げで飲みに行った時のことだ。あいにく私の連れがチャンのことを気に入り抱きついたりチークを踊ったりとやりたい放題。既に一目惚れ状態の私は翌日一人で乗り込んだ。夜中の三時に店がハネ、チャンの案内にまかせて、夜のバンド方面やら、上海の街を飲み歩き私の泊まっていた新錦江飯店に連れ帰った。始めは強く抵抗していたものの、半ば強引にチャンの下着を剥ぎ取ってやると観念し、私に身を任せていた。中国女性の性の概念として、まだまだ日本や欧米のようにフェラやクンニをされることにに慣れていないせいか、付き合い始めの段階ではそうしたオーラルの前戯に極度の拒否を反応を示す。だから私はその日の愛情の確認作業はごくシンプルにまとめ、あとは朝まで抱きしめてやるにとどめた。チャンの父親は警察官で固い家で、七月の始めにクリントンが上海を訪問した時は、アメリカさん御一行の警備で大変だったらしい。そんな警察官を父に持つ厳格な家の一人娘だから、当然に夜のカラオケの仕事はレストランのウエィトレスと偽り、父を騙している。先日再開した時に私はチャンとの一緒の生活が欲しくなり、東京に来るように説得したが、上海っ子には珍しく日本行きなんか全然興味がないとの冷たい返事。。。ならば、愛の生活を確保するために私が上海に住むことも考えたが、稼ぎの基盤を東京にしている関係上それもままならない。差し当たり、遠距離恋愛ってことになるか。
この歳になると少々体にもガタがくる、先日久々に病院通いの羽目になったが、私もいつの間にか中年、尿酸値が高いだの大腸にポリープが出来ているだのと医者にあれこれ指摘され、ポリープを切ることになった。経験者であればすぐにピンとくるであろうが大腸関係の検査や手術にしろ、やたらと付きまとうのが浣腸である。私は病院に行くたびに一回に二本ほど浣腸された。これは、「恍惚と不安我にあり」って感じで数分間は、地獄のもがきをしなくてはならない。
看護婦で藤原紀香似の可愛い喜美子ちゃんは涼しい顔して、
「はい、これからお浣腸しますからね。最低五分間はガマンして出しちゃダメですよ」
なんて優しいのだが私をベッドに横たえ情けない姿にすると浣腸液をアナルにブスリと一気に注入し容赦ない見事な腕前だ。三〇秒も経っていないのに早くもギブアップ、腹の中を台風が渦を巻いてグルグルしているような感じになり、トイレに駆け込もうとすると、
「まだだめですよ。全然ガマンしてないじゃないですか。お腹の中をスッキリさせないと検査はできせんからね」
と言いつつ困り顔のプリティナースのキミちゃんもなかなかグッドだが、その時は精神的余裕もなくただ反射的にキミちゃんの手を掴んでトイレの方角に。私は今にも爆発しそうな腹の苦しみにキミちゃんに哀願した、
「こんな苦しみは初めてだ。気絶しそうなぐらい苦しい!お願いだから、手を握ったままそばにいてくれ!」
洋式トイレの鍵をカチャと締めるやいなや私は電光石火の如く患者用のゆかたを脱ぎ捨て、バ行の濁音と共に苦しみを爆発させた。
キミちゃんは黙って手を握られたまま私を心配そうな目で見ている。ひとしきり嵐が過ぎ去り落ちついて我にかえるとあのトイレの狭いところに二人でいるのがひどく現実離れした気分にさせていた。
「こんな恥ずかしいところ見られたのは初めてだ。全部見られちゃったな。」
「何を言ってるんですか。私は慣れているから平気です。さあ、少しベッドで休んで下さい」
と言って水を流すレバーを静かに引いてくれた。狭い空間でスッポンポンの私の体と白衣のキミちゃんがこすれ合う。新たなロマンスが芽生えた瞬間だ。病室に戻ると、
「体の調子が良くなったら、一緒に飲まないか。」
と誘ってみた。
「まだ東京に出てきて一カ月で何も知らないから。新宿に行ってみたいな」
とのラッキーなお返事。キミちゃんはそれまで大阪の病院に二年間勤務していて、恋人との別れや職場の人間関係に疲れ、心機一転、東京に出て来たとの由。まだ、22才になったばかりで足のラインは今一つであるが、天を仰ぐようなツンと張った胸がボリュームたっぷりだ。遅番明けで翌日が非番だという日の夜一一時に東銀座で待ち合わせた。今はやりのキャミソールなんか着て、私を挑発しているのだろうかと一瞬早くも期待してしまうせっかちな私。タクシーを掴まえるとそのまま歌舞伎町のど真ん中へ。まずはタイ料理レストランで有名な「シャム」で腹ごしらえ。今この手のエスニックな店は、若い女の間でも大変な人気らしい。私はトムヤムクン中毒といってもいいほどこのスープにはまってしまっている。この香りと味と全てが満点だ。
赤ワインでいい気分になり、歌舞伎町の雑踏の中をブラブラしていると、キミちゃんが、
「明日は仕事も休みだし、どこか面白いところに連れて行って! もう少し飲みたいわ」
私はリクエストに答えて「マダム&パパ」へ。
ここのニューハーフクラブには三年前に魔が差して入り込んで以来時たま顔を出し、毎回華麗なショーや超下品な会話で楽しませてもらっている。キミちゃんはこの手の店は初めてで店内に足を踏み入れた途端にその異様な雰囲気に圧倒され、目をパチクリとさせている。オカマたちに看護婦をやっていることを説明すると、悪のりしたオカマたちが浣腸器を持ってこいだ、注射器に薬も病院からかっぱらってこいだとすっかりオモチャにされながらも大はしゃぎのキミちゃん。いつもは友達と居酒屋やカラオケに行く程度でこんな楽しい店は初体験。ミッドナイトの三時を回ったところで、肩を抱き寄せると私にしなだれ掛かってきたので店を出るとそのまま無数にある大久保のラブホテルの一室に潜り込んだ。朝まで上になり下になりで、健康的な汗を流したあと、朝方、狭い洋式トイレの中で、キミコの手を便器につかせながら、後ろで体を重ねた。あの時芽生えた密かな想いを遂げた瞬間でもあった。