3箱目ぱちんこ道

1 .釘師
パチンコゲージ盤を操る
釘師という単語乃至職業が存在することが分かったのは、小学生の頃であったような気がする。月並みであるが当時の人気漫画「釘師サブやん」という物語にて、主人公たる釘師が不良客と対決したり、他のホールの釘師と勝負したりといった世界に胸をときめかしたものだ。また釘師という存在に何か神秘的な力を持った人間というような妙な錯覚も抱いていたような覚えがある。
随分と年月が経って、私がパチンコ業界に参戦したのは爆発的な人気を博した「一発台」の終焉期にあたる1989年だった。そこで自ら釘調整なるものを体験し痛感したのは、パチンコ盤面のゲージの世界、奥深さに魅了はされたものの、どこまでいっても華やかな舞台とは縁のない黒子的で地味な釘師の存在ではあった。振り返って見るとあの狂ったようなバブル経済の終焉と共に「一発台」自体も規制され消えていったことを考えると「ジャスティ」や「サイクロン」といった一発台の名機群が時代の徒花的な象徴であったような気がしてならない。「一発台」とは、もちろん「一発逆転させる」というところから来ていたものであるが、そうした短絡的な発想自体こそがその当時の人々の思考及び日本経済市場全体に流れていた悪しき雰囲気でもあった。
「一発台」における微細な釘調整は非常に重要であった。ほんの0.1mm以下の釘の上げ下げとセーフ玉とアウト玉との差玉データだけで、業界歴史上「最も射幸性の高い機械」を制御する必要があったからだ。経験と勘とハッタリだけで凌いできた釘調整を専門職とする釘師にとってこの時代が最後の活躍の場であったのかもしれない。

2.職人釘師から店長釘師へ
CR機時代が「CR花満開」の爆発的ヒットによって到来、設定付のパチンコ機械、パチスロマーケットの台頭といった流れの中、一部大阪などの特殊な地域を除いて、激減傾向にあった釘調整を生業とする職人釘師が、とどめを刺されるかのように姿を消していった。職人釘師世代がパソコンやデータ解析に疎いということも背景にあったように考える。
その穴埋め的にホールの管理者たる店長が代わって釘を叩くようになったのだ。これは、ホールコンピューターの進化と言った側面があり、「スタート・ベース」概念の導入により、「経験と勘」の世界から機械を「平均・均等的にならすこと」によって、職人的調整手法を必要としない営業が可能となったからだとも言える。具体的には、新台を購入すれば、メーカーの営業マンは私がいうところの「メーカーゲージ・ノーマルゲージ」に仕立て上げてくれる。通常入替えオープン初日営業後までは、アフターケアをしてくれるのだ。後は「命釘のみ」の開け閉めによって、スタートの上げ下げ調整をしながら全体の割数バランスを取っていくのである。ここで着目すべきは、設定付のパチンコ機械の出現と命釘だけしか触らないことが企業内店長釘師の技術力を更に弱体化させていったという事実である。

3.二極化現象と交換レート
しかしながら時代は変遷し、更に進化していく。ここである意味必然なのであるが、予期せぬことが次々と発生するのである。業界内における「勝ち組」、「負け組」といった2極化現象がものすごい勢いで急速進行し、激烈な競合店同士の争いとなった後「出玉交換換金率を変更」するというテーマが業界を揺さぶったのであった。これは大阪を除く日本各地域において、競合店ホールとの差別化を図るホールが、専ら換金レートを上げお客の興味・関心、射幸心を刺激することにより稼動率を高め、薄利多売原理で営業を行うといったものである。
こうした換金レート上昇に伴い、台数を増加させた500台以上の規模になるマンモスホールの出現は特に地域既存中小規模のホール経営を急激に圧迫することとなった。資金体力に余裕あるホールは、長期戦になればなるほど、顧客獲得について優位になるのは自明の理である。地域既存店VS新規大型店との熾烈なバトルの中、パチンコ・コンサルト業なる会社も続々と増え、そうした業者の唱える手法の中には、遠隔操作、不正基盤取り付けによる出玉管理など何でもありの掟破りが存在し、こうした殺伐とした風潮が善良なパチンコファンをホールから遠ざけてしまったことは、誠に残念としか言いようがない。

4.悩む店長釘師
さて業界全体の話から釘師の役割に話を戻したい。こうした大きな業界全体の淘汰の時代、うねりの時、現場の釘調整責任者は何をして、何を考えているのか。
歴史は繰り返すではないが、高価交換における営業トレンドが活発化する中、より微細で狭い領域での確かな釘調整力なくして、等価交換を始めとする高価交換営業は成立しえないということが徐々に判明したのであった。安易に交換レートを上げ、割数管理不能となり、粗利も取れない状態となったのち、レートを元の低交換レートに戻し、お客様を飛ばしてしまう典型的な自滅パターンを数限りなく見てきたのはまだ記憶に新しい。
店長職にある者が、毎晩閉店後ホールコンから弾き出された機械全台のデータを基に、月間確保予定の粗利額を頭の隅に置きつつ、イベント案、新台、圧倒的設置ウエイトの高い「海物語」シリーズなどを中心に翌日の営業メニューや方針作りに集中していた。地区一番の稼動を既に達成しているのであれば、多少精神的にゆとりもあるであろうが、そうでない場合は、穏やかではない。大概の場合オーナー・代表・役員サイドより、「計画以上に粗利を確保し、そして稼動・売上も上げよ!」などという相反矛盾することを厳命されているからである。
当然の帰結として、どちらかといえば釘調整力により、競合店との差別化を図るなどということは発想すらせず、ひたすら斬新なイベント案はないものかと、そちらの方向に頭を悩ましている風景がまず目に浮かぶ。

5.基本原理の提案:公平感
今後別項で詳細に述べていく予定であるが、イベントの話が出たので少しだけ言及する。私の提唱する「ぱちんこ道」において、まず根幹をなす基本原理はホール内サービスの完全なる公平・平等化である。特定の日、曜日、時間帯、機種だけ勝てる可能性を高くし、お客様の購買欲を煽る商法は、私の地区一番店作りには不必要である。大衆の娯楽場などと言われて久しいパチンコ店であるがその本質は賭博である。この経済不況のご時勢に命の次に大切な金銭をお客様に張り込んで頂いている以上、娯楽場などというごまかしはもはや通用しない。お客様にアピールする必要まではないが、勝ち負けの場所を提供する側の意識としては鉄火場、賭博場という厳粛な場と捉えるべきである。したがって誇大表示、嘘、ごまかし等は一切してはならない。ある意味公認カジノ的でパブリック性をもつ場所である以上入場者全員に公平にサービスを提供し「さわやかな緊張感」を提供する姿勢を感じさせなければ、もはや地区一番稼動店への道は夢物語となってしまった。現在ほど、ホール姿勢の在り方にお客様の神経が鋭敏になっている時代はかってなかった。この時代における人々の意識、取り巻く厳しい経済環境が必然的にホール間の苛酷な大競争が引き起こされる要因となったのである。

6.店長釘師への期待
日々膨大な仕事量を抱えている店長にとって、閉店後じっくりと新台や既存台と向き合い、玉を弾き、調整方針、適正交換レートについて考えるなどということは現実的に不可能に近い。店舗管理、スタッフ管理、クレーム対応、機械修理、メーカー営業マンと次の機械の打ち合わせetc…等。処理すべき案件を次から次へと抱え込んでしまっているからである。とにかく店長職は絶対的な作業時間量が足りないし、慢性的睡眠不足で眠い状態が続き、家族のいる店長は家にいてくれと泣きつかれるという有様で、八方塞がり的な状況が延々と続くのである。休日だからといっても、ホールとの鎖が切れた訳ではない。割数、稼動、粗利、売上といった営業数値の呪縛から開放されることは一日たりとも出来ない仕組みになっているのが店長釘師を取り囲む現状である。
そうしたお疲れ気味の店長釘師諸君に何がしか現場の実戦ですぐに採り入れることが可能であり、作業負担を軽減出来るような方法論を提唱していく予定である。

題して「ぱちんこ道」。

私の卓上の理論でなく、日本全国にて、「しのたつゲージ」という独特のゲージ調整理論にて、戦って来た経験値を開示してく。

業務上知り合ったオーナー様を説得し、意識改革に挑戦しながら、ホール全体を好循環の輪の中に放り込むプロジェクトは、実にエキサイティングであった。

今後は日々ホール営業の在り方に取り組み悩む若い店長、経営を引き継いだ二代目、三代目オーナー様が営業のあり方を思考する際の判断材料になるべく、私自身のパチンコ哲学をさらけ出し、私の方法論を世に問うてみたい。

7.戦略的釘師の育成
ハンマーを握り始めた人には、ピンと来ないかも知れないが、釘調整を始めて2~3年程度の経験の持ち主であれば、
「本当に玉を出したい時には、命釘を単純に開けたぐらいでは翌日狙い通りの赤字額にならない」ことを体で覚えて知っている。

急に開けても、制御基盤がびっくりするだけで、玉が全般的に出ないことを経験上、機械を生き物として捉えているので確信を持って機械の動向を予測出来るのだ。

皆こうした経験上知り得た事は誰にも話したがらないし、また表現をして伝えるのがとても難しい世界である。
ベテラン釘師が、今の新基準以後のCRセブン機を最高の基板状態で玉を出したいと判断したなら、3日前から仕込み調整に入り、「ホップ、ステップ、ジャンプの3拍子でスタート回転数を上げていく」という機械の機嫌を取りながら調整する程度の芸当は出来るはずだ。つまり、3日目に基盤特性上、大きなビックウエーブが来ることを体感的に知っているのだ。

私はこの場を借りて、釘調整に興味を持った貴殿をマニアックでアグレッシブなホールの司令搭として、企業内における「戦略的釘師」として育てていきたいと考える次第である。